ガットフォセのアロマテラピー|【3章】異国の薬局方にあるエッセンス

異国の薬局方にあるエッセンス

古代の儀式では必ず、スパイスや芳香植物が使用され、生のまま(ジュニパー、ローズマリー、パイン、ワームウッド)焚かれたり、薬(ゴム、樹脂、バルサム)として用いられた。このような方法は現代の宗教儀式における香の使用に先駆けていたが、目的は同一である。神性の出現の誘い、預言を授かる霊的状態に感応する情的な環境を作り出すことにある。寺院の環境は生理学的にみても、清潔であった。

異国の薬局方は古代の起源に対してより忠実である。現地の情報は、異国の精油研究をおこなう上で貴重である。現地の適用法を元にして、特効薬の調剤に仕立てることもよくあることだ。

中国医学では多くのエッセンスが用いられる。その一つに〈ボルネオール〉に富む”タカサゴギク(Blumea balsamilera)”がある。極東の国々は効き目の非常に高い治療薬をつくるために、結晶化させたボルネオールを多量に輸入している。

ほかにも〈パエノール〉を含む”Paporia Moutan”の根(「Berichte」Nagaiの研究1891年)、〈サフロール〉含有のバースワート”Asarum blumei Duch”の根茎、〈セドロール〉と〈セドレン〉を含むイブキ”Juniperus chinensis” 、血管運動と麻酔作用でよく知られる〈パナセン〉含有のスイートフラッグ”Acorus calamus”とオリエンタルジンセン(Oliv.N.Sakaiの研究、東京医学会1917年)がある。

中国からは他にも、その根に芳香があり、刺激剤となるCurcuma tinctoria、渋く誘導的で激烈なエッセンスCrotum tiglium L. 、条虫駆除剤のMallotus philippinensis Mull、浄化剤のサルトリイバラSmilax China L.などのエッセンスがある。そしてまだ利点がよく分からない芳香性薬剤も多い。Phellodendron chinense Schneid.の樹皮、P.Sacchalinense Sarg.とEuscaphis japonicaの果実、Magnolia denudata(Purpurascens Rehd. and Wilsの変種)の樹皮、Eucommia ulmoides Oliなどである。

オリエンタルジンセンPanax ginseng Ness.は強壮剤・刺激剤・催淫剤であり、回復期の患者や出産後の女性の体力回復にも役立つ。インドシナではタムタット(Panax repens)が同じような目的で使用される。これはウコギ科の植物で根茎には特に雲南省で珍重される薬効が含まれる。

ヴァルモ・ド・ボマールによると、中国人は「茶」と「セージ」を同量で交換する。

中央アジア(アフガニスタン、トルキスタン、北ユダヤ)では、オオウイキョウ属の植物(セリ科、Ferula alliacea)の根からアサフォティダ(アギ)を採集するが、この根には消化作用・強壮作用・催淫作用があると考えられている。腹部膨満感、心臓・呼吸器系・子宮と卵巣における神経性疾患に用いられる。アサフォティダは内臓叢から作用する(フェルーア教授)。重度のヒステリー性痙攣の症例には、瞬時に発作を止めるこの精油を吸入することが助けとなる。吸入が経口投与よりもはるかに早く神経系に働く。

昔のマレーの人々は、ベンゾイン(安息香)を儀式と医療目的に用いた。この樹脂を軟膏にしたり、香として薫蒸することをラオス先住民族に伝えた。

カユプテ(カヤプティ)のエッセンスはインド洋諸島では民間薬として用いられ、中国と太平洋の島々では抗神経痛剤、抗コレラ剤、抗ヒステリー剤となる。極東においてクスノキ(Laurus comphora)のエッセンスは治療目的として幅広く用いられる。

アフリカのベルベル人の間では、アラブ人が「ボフール エル ベルベル」と呼び、欧州ではセルヒン、サルヒナと知られる香料がある。この香料は「タッセルイント」という芳香植物を利用する。この植物には多岐に渡る薬効があり、体重の増量と強壮剤、胃痛にも良い働きがあると、レアル博士が1873年に『Pharmaceutical Journal』に記載している。

中世アラブ医師たちがアルキカーラ(Anacyclus pyrethrum L.)と呼ぶ植物は、ヨーロッパではアフリカ・ピレトリウムという通称で知られるティゲンタストであるが、主に歯磨き粉に用いられている。魔法に近い数知れない効用によって、評判を得た。トーセルギムトとティゲンタストという2種の植物の使用は古くモーゼの時代以前に遡る。この植物はアフリカと中近東の至るところで、貿易の基軸であった。

芳香植物の利点に関する伝承はかなり明確である。例えば、ヘビは春になると胴体をアニスに擦り付けるのは、冬の間に視力が衰えているためである。そのため、アニスの芳香蒸留水は眼病の治療に適用される。バンレイシ科のPopowia capea はアイボリーコーストにおいて入浴に用いられるが、治療効果があると考えられている。

マダガスカルのキク科・ヘリクリサムのような、強く香るラムビアザナ(Helichrysum gymnocephalum Humbert)をパリ医科大学のシャルル・ラナイヴォ医師が研究した。ラムビアザナはマダガスカル人は鎮痛作用・防腐作用・消毒作用を用いてきた。痛み・リウマチ・月経困難症・子宮・直腸・肝臓・疝痛の治療に使われてきた。口腔疾患特に潰瘍性歯肉炎に用いられる。頭痛を鎮静し、睡眠を助ける効果もある。

Achillea fragrantissima Forsk. シリア人がクアイ・サンと呼ぶ植物は強壮剤として用いられる。東洋ではヒオス島産マスティック、レンティスクの樹脂は胃疾患治療に、出血を止めるため、解毒、歯茎の強化に使われてきた。ラダナムには催眠性があり、消散剤である。

ブラジル人はコパイバの樹脂を「ディアス」頭痛の予防と、破傷風の一種の治療に用いる。膀胱炎・風邪・気管支炎にも使用される。

オーストラリアでは、ティトリー(Melaleuca alternifolia)のエッセンスを、カタルや呼吸器系感染症に用いる、それと同様に皮膚病にも用いる特に、熱帯性膿痂疹の治療に適用される。

みてきたように、どの国であっても昔から人類を悩ます病気に対処するには、芳香植物が効果的であると考えられてきた。多くの場合、用いられるのは精油だが、それは揮発性部分が最も効果的であることの証である。知識は長きに渡り伝えられてきた経験に基づくものである。揮発性エッセンス(精油)は、古くから人々を癒してきた。それらの理由と方法の解明を試みるべきである。

『アロマテラピー』ルネ・モーリス・ガットフォセ(フレグランスジャーナル社)より(一部内容を書き換えています)

 

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